概要

ベルリンの壁の崩壊から30年になろうとしている今日、世界全体としても、またその様々な地域においても、20世紀後半に形成された秩序や状態は激しく動揺しています。世界の秩序は混迷し、無秩序化の様相を強めているということができます。
中国が台頭しアメリカ合衆国の覇権が低下する中で、第二次世界大戦後の冷戦期においては皮肉にも見られたような、大国間の紛争回避メカニズムすらありません。一方で、戦後世界で理想的社会像とされた福祉国家型の経済モデルもここに至って限界に達し、新たな方向性を見出せていません。それに代わって世界各地に浸透した新自由主義は、格差拡大や貧困層の増加などの社会的矛盾を深刻化させ、民主政治の枠組みを動揺させています。そうした無秩序化は、政治、経済、社会のみならず、文化や環境、エネルギー、疾病といった自然系を含む様々な位相(aspects)を貫いて表出しています。
我が国の将来を大きく左右するアジア太平洋は、そうしたグローバルな秩序変動が如実に表出している地域です。そのため、アジア太平洋における今世紀の秩序の具体的なあり方と構築の方向性を総合的、学際的に考察することが喫緊の課題となっています。
こうした状況において問われているのは、(a)対立と分裂を基調とする無秩序化が今後も続くのか、あるいはこれを克服し、調和と協働の下で21 世紀の秩序が新たに構築されるのか、そして、(b)新たな秩序が構築されるとすれば、具体的にどのようなものとなるのか、ということです。
現時点では、今後の秩序の具体的な方向性やあり方について、何らかの確信に基づいて多くを語ることは困難です。拙速に陥ることなく、しかし悠長な時間の余裕はないことも念頭に置きつつ、我々は学問的探究を進める中で、21世紀の新秩序を構想していかなければなりません。構想にむけては、世界レベルで覇権をめぐって争う能力を持つ大国の関係ならびにそれ以外の国々の発展と国際舞台での行動のあり方という二つの次元が複雑に絡み合って織り成される実践現場での多様な日常的営為を、注意深く、いわば鳥の目・人の目・虫の目をもって多角的に観察する必要があると考えています。そして、そこで紡ぎ出される制度─ある社会の成員によって、ある目的を達成するために正統と認められている了解・合意事項、行動定型、規範・ルール、慣習─を見出し、あるいは制度構築のための環境整備に貢献し、それらを丁寧に繋ぎ合わせて地域大、世界大の秩序形成へと発展、展開させなければならないと思います。
「環太平洋研究ハブ拠点形成」は、以上のような展望の下に展開する学問的営為であり、21世紀のアジア太平洋における新たな秩序を構想することに寄与することを念頭において推進するものです。

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